ゴシックとは何か? 今回は現代のゴシックについてです!
「ゴシックとは何か?」既存記事
(1)カトリックの支配する中世ヨーロッパに生まれた建築様式、実は異教の森
(2)中世ヨーロッパは布教途上。美術も音楽も異教的
(3)ゴシック様式受難の時代:ルネサンスは微妙な反ゴシック
(4)ゴシック様式受難の時代:宗教改革は徹底的な反ゴシック
(5)ゴシックの復活:イギリスの場合は廃墟の美学
(6)ゴシックの復活:ドイツはロマン派とケルン大聖堂
(主な参考文献:酒井健『ゴシックとは何か 』、唐戸信嘉『ゴシックの解剖 』)
18~19世紀のゴシック・リヴァイヴァルは、そこで終わることなく、ゴシック的なものは現代においても生き延びています。
プロテスタントのほうがゴシック好き
「ゴシックとは何か?(4)」で宗教改革は反ゴシックであった話をしました。
そして、つづく(5)(6)では、そのプロテスタント地域からゴシックが復活してきた様子を見てきました。
カトリックは悪魔憑きや幽霊などオカルト現象にたいしてエクソシズム(悪魔祓い)を行って対処しました。
しかし、プロテスタントはエクソシズムのような儀式をいんちきと見なしました。
悪魔憑きも迷信なら、悪魔祓いも迷信であると。
そのくせ宗教改革後の世界のほうが、悪魔は頻繁に人びとの前に姿を現しました。
抑圧された欲望や願望は……密かに成長し、反逆の機会を伺うことになル。近代という宗教改革後の世界で、悪魔がいよいよ勢力を拡大した最大の理由はそのあたりにあるだろう。
(唐戸信嘉『ゴシックの解剖』p119)
一見、矛盾するようですが実は必然的な流れです。
プロテスタントは「悪」や「死」を嫌悪しました。
清く美しい世界を破壊するものはすべて憎しみの対象なのです。
抑圧された「死」や「悪」は死神や吸血鬼の出現を招きました。
現代に生きるゴシック
20世紀に入ると、ゴシック建築ブームは下火になりましたが、ゴシック・ロマンスは人気を博し、小説や絵画、映画などで大成功をおさめていきます。
ゴシック設定あるある
ゴシックの代表的なキャラ設定は幽霊、吸血鬼、人造人間・アンドロイド、ドッペルゲンガー、悪魔憑き、二重人格、囚われの乙女など。
ゴシック風背景として典型的なのが、廃墟や古城、地下、牢獄、森などです。
RPG(ロールプレーイングゲーム)ではダンジョン(地下牢)が舞台になることが多いようですね。これなどもゴシック的背景です。
暗く、死を思わせる内容が共通項。
具体的な作品は『ドラキュラ』や『フランケンシュタイン』『ジキル博士とハイド氏』『オペラ座の怪人』。
伝統回帰しない現代のゴシック
近代化・合理化が進むなか、古い価値観を見直そうという考え方が18世紀のゴシック・リヴァイヴァルを生みました。
しかしリヴァイヴァルのリヴァイヴァルとも言える現代のゴシックは、抑圧からの解放という共通項はあるにしても、古い秩序、権威などといったものとは無縁な世界で展開しているようです。
ゴシックを継承するものたち
映画やアニメ
現代のSF映画にはゴシックの系譜をついでいるものがたくさんあります。
たとえば『ターミネーター』や『ブレードランナー』などのディストピアものは、廃墟化した未来都市を描いています。
また、日本のアニメにもゴシックの影響が見られます。
よく知られている『ルパン三世 カリオストロの城』はゴシック的要素のコラージュで成り立っています。
悪役のカリオストロ伯爵とその一味はゴート族の末裔という設定で、彼らが密かに造幣している偽札は「ゴート札」。お城はロマネスクとゴシックの折衷様式。地下には迷宮。
映画を見たときにはそれほど、まがまがしいとは思いませんでしたが、よく考えればゴシック的です。
ゴシック・ファッション
「ゴシック」が一定のファッションを意味することがあります。
黒を基調としたモノトーンに濃いアイメイク。
陰鬱な雰囲気をかもし出す。
ためしにアマゾンで「ゴシック」を検索すると、こんな服が出てきました。
ゴシック専門店!?
以前、紹介記事を書いたFourth Place & GGなどは、いわばゴシック系アイテムの専門店です。
専門店が出てくるということは、興味のある人が相当いるということです。
ゴシック必ずしも保守ならず
先にも触れましたが啓蒙主義・合理主義の否定から出発したゴシックは本来、保守との親和性を持っていました。
しかし、「ゴシック・ファッション」を好み、タトゥを入れたりボディ・ピアスをしている現代人は、保守とはむしろ正反対の極にいる人びとに見えます。
ビジュアル系もゴシック
それに、1970年代にイギリスやアメリカで生まれたゴシック・ロックが日本に入ってくると「ビジュアル系」になったのだとか。
文献にあたりながら記事をまとめましたが、さまざまなゴシックを発見。
私もびっくりしたものが多々ありました。
自覚なきゴシック
日本にはキリスト教的な伝統はありませんが、近代合理主義のひずみのようなものはありますから、ゴシックに惹かれる人は今後も増えていくことでしょう。
グロテスクなもの、死をイメージさせるもの、化け物、幽霊、怪物の世界。
「ゴシック」というと、舞台をヨーロッパ、あるいはヨーロッパ風の異世界に設定しないとサマになりませんが、広義にとらえれば『ゲゲゲの鬼太郎』や『陰陽師』なども日本のゴシックと言ってもいいのではないでしょうか。
無自覚のゴシックを含め、日本でもゴシックが広がっています。
参考文献
『ゴシックとは何か』酒井健著(講談社現代新書、2000年/ちくま学芸文庫、2006年)
『ゴシックの解剖 暗黒の美学』唐戸信嘉著(青土社、2020年)
最後まで読んでくださってありがとうございました。