今回は私が翻訳した『死後世界の探究』(新評論、1997年)を紹介します。
元原稿は英語、原書はドイツ語
『死後世界の探究』、著者が書いた原稿は英語(Death… and After?)なのですが、英語版は出版されていません。
私が出会ったのはドイツ語版”Der Tod ist nicht das Ende”(Ariston Verlag)でした。
興味を持ち、ぜひ翻訳したいと著者に問い合わせると快諾をいただいたので、出版社に持ち込みました。数社にコンタクトを取りましたが、そのうち新評論からよい返事をいただき、翻訳出版の運びとなりました。
著者のリーズル博士はチェコ生まれの超心理学者で、冷戦時代にアメリカに亡命し、アメリカの大学で教鞭をとっている人でした。英語で講義をしているのですから、英語はできるのですが、母語ではないので、文章表現は巧みではなかったようです。
私はリーズル博士の英語の良し悪しを判断できませんが、息子さんと話したことがあり、彼によると
「父の英語はあまり上手じゃない」
それで英語では出版社がつかなかったのではないでしょうか。
しかし、著者と個人的なつながりがあって出版の運びとなったドイツ語版は売れ行きがよかったようです。これについて息子さんいわく、
「ドイツ語版は翻訳者がよかったんじゃないかなあ」
それなら英語版も翻訳者(リライト)を頼めばよかったのでは?と思ってしまいますが。
日本語への翻訳にあたっては、元原稿の英語とドイツ語訳の両方にあたりました。そんなわけで原書コピーライト表示はドイツ語版が載っています。
出版された日本語版は二瓶一郎社長(当時)によると、
「会社が損をするほど売れてないわけじゃないが、よく売れたとはいえないなあ」
すみません。
超心理学とは
超心理学とは超感覚的知覚(extracensory perception: ESP)と、それに関連した現象を研究する学問分野です。
そうです。
オカルトや迷信、詐欺と一緒にされがちなのですが、著者リーズル博士はジョン・F・ケネディ大学で教授として教えていた人です。アメリカではまじめな研究分野と捉えられ、科学的なアプローチで研究が行われているのです。
そしてリーズル博士によると、ESPは法則に従った能力であり、程度の差こそあれ、誰でも潜在的にもっている新しい感覚です。第六感と呼ばれるものも、これに含まれます。
昔、文字の読み書きは一部の人が持つ特殊能力でした。しかし今では、文明国のほとんどの人が学校に通って読み書きができるようになっています。
それと同じようにESPも、訓練すれば誰もが使えるようになるはずというのがリーズル博士の主張です。
超心理学と死後の世界
『死後世界の探究』では、19世紀に流行したスピリチュアリズム(降霊術などを行う)や体外遊離体験、幽霊、臨死体験、前世の記憶などについてESP仮設の観点から捉えています。
これらの現象を「信じて」いる人が本書を読むと、イメージが壊れるかもしれません。それぞれの現象を肯定しながらも、説明が物理的ですから。
リーズル博士は死後世界を否定しているわけではありません。何らかの形で死後世界が存在しているということは肯定しています。簡単にまとめると、それを超感覚的知覚(ESP)で受信して諸現象が起こっているとの立場です。しかし、霊が死者の人格と記憶を保ちながら、そのままの形で生きつづけるなどの話は疑問視しています。
今となっては、リーズル博士自身が故人ですが、死後世界でどうしていらっしゃるでしょうか。夢枕にでも立って教えてくれるとうれしいのですが。
本を翻訳したときはご存命で、疑問点などは直接問い合わせ、丁寧なお答えをいただきました。今ならメールで一瞬のうちに届きそうですが、当時は原始メールで、往復に一週間以上かかったことを、なつかしく思い出します。
ESP活用法
誰でもESPを活用できるというのがリーズル博士の主張ですが、ではどうやったらいいのか。そのヒントは身近なところにあるといいます。
宗教家の一見まゆつばものの言葉も、実は意味がある!
「神に祈りなさい」
賢明で慈悲深い存在が圧倒的な力で見守っていてくれて、助けてくれるとの信仰はいつも励みになり、次のステップにつながります。
「心を開いて、溢れんばかりの愛と神への信頼で、願いごとをかなえてくださるようにお願いしなさい」
強烈な欲求、感情的一体感、かならずうまくいくと信じること、これらすべてサイパワーの活性化に重要な要素です。
「恐れてはいけません。要らぬ心配に心を悩ませてはいけません。神を信じなさい。あなたが欲することを頑固に主張してはいけません。神に委ねなさい。神は何もかもご存じなのです」
すべてを委ねることで緊張と恐れを解き放ち、浄化することができます。否定的感情はサイの働きを鈍らせるのです。
「日頃から努めなさい。神は自ら努力する者をお助けになります」
努力する姿勢は目的に対する自信、ポジティブ思考につながり、葛藤をとりのぞきます。
これらは、ふだんの生活で成功をおさめるために、そしてサイがうまく働くために重要な心のあり方なのです。
文言はキリスト教的ですが、内容は基本的にどの宗教にもあてはまる教えではないでしょうか。
信仰が希望の実現を助けるなら、開運グッズもあながちバカになりませんね。
また瞑想や、逆に肉体の限界に挑戦するような修行なども、超感覚的知覚(ESP)を発動させる条件を整えているのです。
瞑想をしようと座ってみるのは簡単ですが、思考を無にするのは意外と難しいですよね。個人的には、鳥の声、雨音に耳を傾けるとリラックスできます。それ以外でも、身の回りの聞こえてくる音(あまりうるさくない音)に集中すると雑念が払われるように思います。
今なら瞑想用のお助けグッズがあるかなと探してみると音で瞑想状態へといざなう健康増進機器がありました。例えば、音を聴くだけ。1番シンプルな瞑想方法を謳った「シンプル瞑想」。名前がいい。確かにシンプルです。
課題は再現性
リーズル博士には『ESP開発法』という具体的な方法論を述べた著作もあります。その方法で読者が必ず「超能力者」になるわけではないと思いますが、博士には「超能力者」を育てた実績があります。再現性を高めることに成功していたら、もっと話題になっていたことでしょう。
もっとも、何をもって「超能力者」とするのかは難しいものがあります。SF映画やアニメに出てくるテレパシーやサイコキネシストのような明らかな「超能力者」はわかりやすいのですが、「希望がかなう」「虫の知らせがする」など、「運がいい」で片づけられてしまいそうなものもあります。
そして、誰かの希望がかなったとして、それがリーズル博士のメソッドによるものなのか、そうでないのかは区別がつきません。
いずれにしても、明らかな「超能力者」をわずかでも育てたのだから、リーズル博士は、やっぱりすごいと思いますけどね。
『ESP開発法』も翻訳したいと申し出たのですが断られました。
二瓶社長いわく、
「いちおう新評論は固い出版社で通っているからさあ。これじゃあ超心理学の宣伝みたいになっちゃうよ」
あまりにも超心理学すぎた『開発法』は却下となったのでした。
最後まで読んでくださってありがとうございました。