ライター部屋

【制作書籍】宮脇淳子『皇帝たちの中国史』徳間書店 中国のウソとホントがわかる! 

【ライティングアシスタントチーム倉山工房・編集協力担当が語る制作書籍紹介】

中国史って、わかりにくいと思いませんか?

たびたび国の名前が変わるのに、どれも代わり映えがしない(ような気がする)。

学校の世界史では、役所の名前を覚えさせられたりしました。

のりあちゃん
のりあちゃん
意味がな~い!

あれは謎。

今回は私が倉山工房でアシスタントを担当した宮脇淳子先生の著書『皇帝たちの中国史』(徳間書店)を紹介します。

 

中国とは何か? 複雑に見える中国史をわかりやすく解説する本です。

その起源から掘り起こし、日本人が見落としがちな視点が盛りだくさん。読み終わったらきっと中国観が180度変わることと思います。

なお、好評につき2023年8月、ついに新書化!

漢字を学ぶ前にアルファベットを習う中国人

学生時代、中国からの留学生に「中国では漢字はどうやって学ぶの?」と聞いたことがあります。日本人は「ひらがな」「カタカナ」を習ってから、「〈がっこう〉は〈学校〉と書く」と学びますが、中国人はいきなり漢字をどうやって習うのか疑問だったからです。
答えは「最初にアルファベット(abc…)を教わる」でした。

のりあちゃん
のりあちゃん
へ? 自分の国の文字を覚える前にアルファベットを習う?

そのときはその人の学校がミッション系か何かで、欧米系の言語に力を入れている特別なところなのかと思いました。

しかし、それが一般的な学習方法であるということが、宮脇先生の話からわかりました。

のりあちゃん
のりあちゃん
現代はともかく、じゃあ昔はどうしていたの?

アルファベットが入ってくる以前は、いきなり漢字を覚えたのです。詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、当然、かなりアクロバティックな覚え方をしなければならず、そんなことでは識字率など上がりません。ごくごく一部の人しか使えない代物でした。

知っているようで知らない中国、隣の国なのに、顔も似ているのに、何かが違う。
宮脇淳子先生の『皇帝たちの中国史』は、そんな未知なる隣国・中国の知られざる本質をさぐる本です。

 中央アジア史に宮脇淳子あり!

宮脇先生は東洋史の専門家です。研究の中心テーマはモンゴルや中央アジアにあるのですが、その辺の研究をしようとすると、中国はもとよりロシアやペルシア・アラビア地域についても知らなければなりません。大変に難しい分野に挑戦された、その道のパイオニアです。

モンゴルの騎馬

先生の著作には『モンゴルの歴史』(刀水書房)がありますが、これなどは、なんとモンゴル語に翻訳されて、この本でモンゴル人がモンゴルの歴史を学んでいるそうです。

のりあちゃん
のりあちゃん
モンゴル人が書いたモンゴル史はないの?

なかったのです。

のりあちゃん
のりあちゃん
どうして?

これも詳しくは本を読んでいただきたいのですが、簡単に言うと、民族の歴史を学ぶことを禁じられていたからです。

モンゴル人がモンゴルの研究ができなかった。そんな悲しい歴史があります。現中華人民共和国内の少数民族ばかりではありません。社会主義圏だったモンゴル人民共和国でも自分たちの歴史を学ぶことができなかったのです。

冷戦が終わり、やっと自由に研究ができるようになったモンゴル人が、ようやく自分たちの歴史を取り戻しはじめています。そして、その道の第一人者である宮脇先生の研究が現代モンゴル人に重宝されているわけです。

のりあちゃん
のりあちゃん
ところで、これは中国史の本じゃなかったっけ?

そこがミソ。中国史は中国だけでは語れないのです。

生々流転し民族大移動! 人口が10分の1になるところ

私たちが中国と思っているもの、思わされているものがどれだけ(今で言う)少数民族に負うているか、この本を読んでいただけると明らかになります。

そもそも中国は彼らの作った国なのです。今、自分が「中国人」と思っている人も、実はそのDNA的なルーツはもう全然、「漢」民族ではない(確率が高い)。

秦・漢古代帝国から清まで多くの王朝が勃興してきましたが、その4分の3は異民族王朝です。

東アジアの大陸部は厳しいところです。とくに華北平原は何度も絶滅に近い被害を被っています。

日本は島国で真ん中に山脈があり、各地で気候が異なりますので、どこかが不作でも別の地域は豊作だったりします。また海があるので魚がとれます。全員が餓死するようなことはいまだかつてありませんでした。

しかし華北平原は不作のときは、一帯が不作となります。食べられなくなれば社会は混乱し、戦乱の世になり、戦争が起これば人が殺されたり逃げたりして、ますます田畑は疲弊するという悪循環に陥ります。そんなこんなで人口が10分の1になってしまうこともある
人口の10分の1が亡くなるのではありません。その逆です。1割減っても大量死ですが、9割死んでしまうとは想像を絶するすさまじさです。

気候が良くなり、戦乱が収まり「再び新しい国づくりだ~」となったときには人がほとんどいません。そこに入ってくるのは移民です。全然、違う人が入ってくる。

そんなことが何度も繰り返されました。

ですから、今あの辺に住んでいる人のほとんどは紀元前後ごろに漢王朝を建てた人々の子孫ではないので、「漢民族」という名称はとても怪しい。

中国の方言地図などを見ると北方の言葉は広く通じる言葉が一帯に広がっているのに、南部は「方言」が細かく分かれています。

普通、大陸の広い地域で同じ言語が話されることはありません。アメリカ大陸やオーストラリア大陸が英語やスペイン語一色なのは、新しい時代に移民が入って短期間に広がったからです。つまり、華北で人が全滅し、新しい移民が一斉に入ってきたとの説は言語分布を見ても納得できます。

中国5000年は真っ赤な嘘

「中国5000年」とか、ひどい場合には「中国8000年」など言っているのをときどき見かけますが、観光パンフレットのキャッチコピーならともかく、まともに信じないで下さい。

「中国」は「中華民国」(1912年設立。現台湾の正式名称)および「中華人民共和国」(1949年設立)の略称であり、それ以前には支那(シナ)ほか別の名称で呼ばれていました。コロコロ国名が変わるので、古くは、とっくに滅んだ「漢」や「唐」を用いて、「漢字」、「漢籍」、「漢文」、「唐辛子」、「唐人」、「唐(から)の国」のような言い方をしていました。

古代ギリシアの遺跡

ヨーロッパ連合(EU)は1993年に発足の組織で、まだ国ではありませんし、国になりそうにありませんが、もし国家として統合されたとして、ギリシャ・ローマ時代から通算してEU3000年とか言い出したらどう思うでしょうか。さらにエジプトやバビロニアに遡ってEU5000年などと言い出したら?

のりあちゃん
のりあちゃん
笑っちゃう!

中国5000年もそれぐらいおかしな表現です。

5000年ほど前から文明らしきものがそこにあったのは事実です。

しかし、まったく違う人がまったく違う国を打ち立ててきました。中心の位置も、北のほうだったり、南の方だったり、時代によって異なります。

古代ヨーロッパの中心はギリシャ・ローマなど地中海でした。今のヨーロッパの中心はドイツなど北方から西方のヨーロッパです。そしてギリシャ人、イタリア人、ドイツ人は、今も昔も同じ民族とも同じ国とも思っていないでしょう。

当の中国人にしても国家意識は希薄なように思われます。少数民族は言うにおよばず、「漢民族」とされている人々の中でも、北京を中心とする北方の人々と広東人と四川人が「同じ中国人」と思っているかどうか大いに疑問です。

有名な『文明の衝突』(サミュエル・ハンチントン著)には「中国は文明ではあるが国ではない(国のふりをした文明である)。日本は文明であると同時に国である」とありますが、そんなところでしょう。

ヨーロッパ文明はあっても、ヨーロッパという国はない。そのぐらい中国という国は事実上ない。というか、あれを国と呼ぶならば、私たちの「国」の概念を大幅に修正する必要があると言えるでしょう。

『皇帝たちの中国史』紹介番組

『皇帝たちの中国史』は「チャンネルくらら」でネット配信された「皇帝たちの中国」シリーズ(2018年6月~2019年2月)の書籍化です。

「皇帝たちの中国」第1回 中国人はどこから来たのか(2018年6月5日配信)

元々は宮脇先生の夫・岡田英弘先生の著作『皇帝たちの中国』

を易しく解説するコンセプトで始まった番組だったのですが、岡田先生の著書にはないエピソードや背景知識を盛り込んだ興味深い内容となったので別本として書籍化されることになったのでした。

のりあちゃん
のりあちゃん
タイトルも似てるね!

両方あわせて読むと1+1=2ではなく、相乗効果で十倍よくわかりますよ。

 

そして、宮脇先生の書籍発刊後、あらためて紹介番組が配信されました。

特別番組「皇帝たちの中国史」(2019年12月12日配信)時世がら香港問題から入っていますが、4分45秒ぐらいから本の話になります。

 

中国(シナ)とは何か?(2019年12月19日配信)

『皇帝たちの中国史』は、古代から清帝国までの大陸東アジアを宮脇淳子先生が世界史的スケールで語った壮大な東アジア史です。東洋史や中国に興味のある人にはぜひ読んでいただきたく思います。

好評につき新書になって再発売

好評につき2023年8月に新書化!

巻末の福島香織先生による解説では故岡田先生と宮脇先生のラブストーリーが語られていて、ファン必読!

最後までお読みくださってありがとうございました。

本ブログ管理人の倉山工房での他の主な担当作品はこちら