昔はアイドルといえば下手クソと相場が決まっていましたが、最近はそうでもありませんね。
今回は2020年にデビュー35周年を迎えた実力派歌手・森川美穂さんについて書きます。
昔、実力派アイドルは不遇だった
「実力派アイドル」を傍流から主流へと変えたのは安室奈美恵だったのではないでしょうか。
安室ちゃんを最初に見たのはテレビCMでした。何のCMだったかは忘れましたが、歌が流れるだけでなく安室ちゃん本人が出演していたように記憶しています。
思い違いでなければ、たぶん楽曲は「try me」。
目と耳を釘付けにされました。
「この子、いい!」
しかし、次の瞬間に思いました。
「でも、売れないだろうな」
というのは、それまで私がいいと思った歌手はことごとく売れなかったからです。
もっとも「アイドル」の枠組みとは少し違うところにいたロック系、アーチスト系の歌手には永井真理子やレベッカのNOKKO、渡辺美里など上手な人がいましたが。
ところが安室奈美恵は上手なのに(?)またたく間にスターダムにのしあがり、ナンバーワンアイドルとなっていきました。
それまでも古くは岩崎宏美や柏原芳恵のような実力派アイドルはいました。いちおう売れていましたが、彼女たちに冠される「実力ナンバーワン」の枕詞は、皮肉にも、並みいるアイドルたちの中での「人気ナンバーワン」ではないことを示していました。
しかし、実力派でもある安室奈美恵は歌が売れるばかりでなく、ファッションリーダーとなり、街のあちこちに安室奈美恵もどきが出現するという「アムラー」現象を引き起こしました。安室奈美恵は一発屋で終わらず長く活躍し続け、世紀の大アイドル、大アーチストとなっていきました。
私は安室奈美恵がトップスターになっていくのを見ながら、自分が認められたかのように、うれしく思ったものでした。
知る人ぞ知る森川美穂
安室奈美恵以前に私が「いい」と思った歌手の多くは名前を覚える暇もなく消えていきました。名前を知ることができたのが唯一、森川美穂です。
美穂さんの場合はNHKアニメ『ふしぎの海のナディア』の主題歌を歌っていたので、画面を見ていれば「歌:森川美穂」と出てくるからです。
今ならググるなりウィキるなりするところでしょうが、当時はインターネット普及以前ですから、簡単に検索できないのです。テレビ局に電話するとか以外、調べようがない。普通そこまではしないので、歌番組やラジオなどで名前を連呼されないと記憶に残りません。メディアでの露出がなければ一般に知られることなく終わるのです。
『ふしぎの海のナディア』のオープニング曲「ブルーウォーター」とエンディング曲「Yes, I will…」が収録されているのはアルバム「Vocalizaton」です。
なかなか挑戦的なジャケット写真に男性ファンは「誰だ、コイツ! オレの美穂ちゃんにさわるな~」とか叫んだのではないでしょうか。
CDを買って聞くと、他の歌もいい。
伸びる高音。元気な曲はハツラツと、パラードは情感豊かに。どんな曲でも歌いこなす若手のホープと思いました。
でも、「ブルーウォーター」と「Yes, I will…」以外は聞いたことがない曲ばかり。
美穂さんには、アルバム「Vocalizaton」の前後にも、CMソングやテレビ番組主題歌など小ヒット、中ヒットはあるのです。
たとえば『らんま1/2』のエンディング「POSITIVE」、
それに、『夢がMORIMORI』オープニングテーマ「恋していれば大丈夫」、サンキストレモンウォーターCMソング「Shiny Sunny Face」。
しかし、いかんせん大ヒットがない。だから、「森川美穂」は知る人ぞ知る実力派歌手ではあっても、広範に知られているとは言えませんでした。
もう一世代(半世代?)上の高橋真梨子なども実力を認められながら、大量のヒット曲に恵まれた歌手ではありません。それでも「『桃色吐息』を歌った人」と言えば、少なくとも当時を生きていた人には、わかってもらえます。
大ヒット曲がひとつあるかないかは大きい。
森川美穂の歌のなかで、もっとも露出度が高かったのは、『ふしぎの海のナディア』のオープニングソング「ブルーウォーター」だと思いますが、これも世代限定でしょう。
↑は後に歌い直されたバージョン。オリジナルは先のアルバム「Vocalization」に収録されています。
上手すぎたからか、媚びない姿勢が生意気と思われたのか、あまり売れたとは言えない森川美穂、そうこうするうち表での音楽活動からは退いてしまいました。
カムバーック! 復活の森川美穂
指導的立場に立って音楽の仕事をしていると風のうわさに聞いていたけれど、美穂さんファンとしては、やはり歌を聞かせてもらいたい。
そう思っていたら、最近カムバックしていたのですね。
Female
アルバム「Female」では大人の女・森川美穂がいろいろな女性の愛の形をしっとりと歌います。
昔は「弱気な人は嫌い!」とパシッと叩いて回る感じの強気のアネゴでしたが、「Female」では「さよならも言えないくせにあんなに強く抱いてはだめ」なんて歌っています。人生経験を積んで優しくなった美穂さんがここにいます。
another Face
カバーアルバム「another Face」もいいですよ。
「Friend」「碧い瞳のエリス」「熱視線」「好きさ」「じれったい」「微笑みに乾杯」「悲しみにさよなら」など安全地帯の大ヒット曲がいっぱい。
オリジナルの玉置浩二もよかったけれど、女性歌手が歌うことによってまた違った味わいになっています。
昔のパコーンとした高音の鳴り響くボーカルも素敵だったけれど、丁寧に歌いこむ今の美穂さんもいいですね。
森川美穂 very best songs 35
そして2020年、デビュー35周年を記念して、ベストアルバム『森川美穂 very best songs 35』が発売されました。
これから森川美穂を聞く人にはぜひオススメです。
当初から上手な歌手ではあったのですが、常に進化しつづける森川美穂がよくわかるでしょう。
森川美穂は自分世代の実力ナンバーワン歌手と昔も今も思っています。
美穂さんにはこれからもずっと歌い続けてほしいですね。
I・N・G
さらに、2021年11月にNew Albumが出ました!
しっとり系の大人ソングが続いていましたが、今回はかつてのような元気な曲が増えました。
また、1996年の『ソリスタ』に英語デュエット曲として収録されていた「HERE WITH ME」(クライスラー「ネオン」イメージソング)が日本語になって再登場! ソロ曲として歌われています。
なつかしくもあり、新鮮でもあり。
ソリスタ
ちなみに『ソリスタ』は90年代の森川美穂アルバムのなかで最も好きでした。
「HERE WITH ME」のほか、’96サンジョルディの日イメージソング「99 Generation」、テレビ東京系「クイズ!赤恥・青恥」エンディングテーマ「Domino」など、名曲ぞろいです。
最後まで読んでくださってありがとうございました。