つれづれエッセイ

日本の地図は中国から始まる 地図帳の変遷

ニュースなどを見ていて、「それどこ?」と思うことがよくあります。

昨今ではスマホやパソコンで何でもすぐに調べられますが、紙の地図帳には、また違った面白さがあります。

ただ、地図帳を開いたとき、いろいろと疑問を感じることはありませんか?

こんにちは。香り好きライターまぐのりあです。「つれづれエッセイ」では日々の気づきを記していきます。

15~20年おきに地図帳を購入

高等学校の地理の副教材に地図帳があります。コストパフォーマンスがいいので、社会人になってからも不定期に購入し、古くなったものも捨てずに置いてあります。

今、持っているのは:

A:昭和56(1981)年版『高等地図帳』二宮書店。現役高校生のときの地理の副教材。

B:平成9(1997)年版『高等地図帳』二宮書店。冷戦が終わり旧ソ連や東欧にいろいろな国が独立して誕生・復活した90年代末に購入。

C:平成28(2016)年版『新詳高等地図』帝国書院。地図帳内のデータが古くなってきたので購入。

AとBは二宮書店、Cは帝国書院。高校生用の地図帳は主にこの二社から出ているようです。少なくとも書店ではこの二社のものしか見当たりません。

 

個人的には字や線の感じがシックな二宮書店版のほうが好みだったのですが、たまには違う出版社(帝国書院)の地図にしてみようと購入したのがC。

なお、最新版の二宮書店版の高校生用地図帳は『詳解現代地図』と名前が変わっているようです。

高校生用の地図、どこの国から始まる?

上に挙げたABCの地図、それぞれ、どこから始まっているかというと……

Aは地図帳の前半が日本地図で後半が世界地図という構成になっているので、日本地図から始まります。

B、Cではそれが逆転し、前半が世界地図で後半が日本地図です。

そして世界はどこから始まるか。

ABCともに、なぜか北極圏を中心としてユーラシア大陸とアメリカ大陸を向かい合わせたあまり使えない地図を最初に持ってきています。

地図 北極圏

上はC(2016年帝国書院版)で、歴史地図でもないのに、なぜか「第二次大戦中(1941年)のアジア」が小さく囲み(上図右上)に入っています。

ちなみにAには囲み地図はなし。Bでは「シルクロード(東西交流の道)」が掲載されていました。

地図 1941年のアジア

問題はそのあと。

Aはソ連から始まっています。

ユーラシア北部

ソ連とはソビエト社会主義共和国連邦の略。昔そういう国がありました。「バカにするな」という人もいるでしょうが、ソ連崩壊後に生まれた世代が大人になっています。「ソレンて何?」と質問する人がいるので、念のため。

ページタイトルは「ソ連」ではなく、「ユーラシア北部」です。しかし、中央にデーンとあるのはソ連。

そして冷戦が終わり、ソ連が崩壊した後のBおよびCでは中華人民共和国から始まっています(下図はBですが、Cもほとんど同じ)。

東アジア

ページタイトルは「東アジア」ですが、中央にあるのは、まぎれもなく中華人民共和国。

冷戦が終わったら「ユーラシア北部」から始まっていた世界が急に「東アジア」からに。

教材製作者の意図を感じさせられます。

台湾はどこ?

帝国書院2016年版で驚いたのは台湾の拡大地形図の位置です。

最初、ないのかと思いましたが、よく探したらありました。中華人民共和国の産業地図の中に埋もれていたのです(下図、左頁右下)。

台湾の地図が・・・

つまり、帝国書院2016年版では台湾は中華人民共和国の一部であり国ではないとの明確な主張をしているわけです。帝国書院、いったい、どこの帝国の書院でしょうか。

B(1997年、二宮書店)では、台湾はマレーシアやインドネシア、フィリピンの主要部(拡大図)と共に並べてありました。

東南アジア諸国に並ぶ台湾

二宮書店版も最近のものは帝国書院版のようになってしまったのだろうかと思って書店で見てみると、以前の版(B)同様に台湾を国扱いしていました。

ただ、両社には同じく高校生向けに大型版の地図帳もあります。コンセプトの違いはよくわからないのですが、

二宮書店からは『基本地図帳』、

帝国書院からは『標準高等地図』が出ています。

こちらは二宮書店版の台湾が中華人民共和国の産業地図と併記されており、帝国書院版のほうが自然な位置に台湾拡大図を置いています。

出版社というより編者の姿勢ということでしょうか。

無言の刷り込みに注意!

ABCの比較に話を戻しますと、

Aでは世界はソ連から始まっていましたが、その前に日本がありました。

しかし、B、Cでは本当に地図帳そのものが中華人民共和国から始まっている形です。

日本の高校生が学ぶ地図として適当な配置でしょうか。

 

学校教材に有言無言の刷り込みがおこなれています。特定の派手な反日キーワードに関心が集中している間に、一事が万事この調子で着々と「常識」が培われています。

たいした主張のない図や写真もその配置や順番を見ると、さまざまな意図を感じることがあります。

漢字の地名が日本語で探せない索引

少し話が変わりますが、ABCともに索引で外国の漢字の地名を探すのが難しい。

旅順はリュイシュン、漢口はハンコウで探さなければなりません。「りょじゅん」「かんこう」では載っていないのです。

Cでは旅順→リュイシュンとなっていました。少し改善。しかし、漢口はやはり「ハンコウ」でなければ引けない。

旅順のように偶然同じ「リ」で始まるものは「リ」の項の中から(併記されている)漢字を探せば見つかりますが、漢口は「カ」と「ハ」ですから、全然違うところにあり、ふつうに音読みしたのでは検索不可能です。

普通の日本人、武漢をウーハン、洛陽をルオヤンで引けるでしょうか?

Cでは「ぶ」の項に「武漢→ウーハン」、「ら」の項に「洛陽→ルオヤン」と書いてあって何とかたどりつけますが、どうしてわざわざ手間のかかる引き方をさせるのでしょうか。

同じく高校生用の『世界史用語集』(山川出版社)では武漢は「ふ」、洛陽は「ら」の項に入っています。

つまり、世界史と地理で同じ地名を別の名前で覚えなければならない。

それに、Cでも「→」がついているのは一部の地名であって、ほかは漢口のように普通の音読みからは検索できないのです。

いったい誰のための地図でしょうか。

地図を見るのは好きなのですが、ときどき腹が立ってきます。

最後まで読んでくださってありがとうございました。