キエフ? キーフ? リヴォフ? リヴィウ?
紛争のため、ニュースなどで毎日のようにウクライナの地図を見ることとなり、それまでウクライナといえばキエフぐらいしか知らなかったのに、今はいろいろな場所を知っています。
ところでウクライナの地名が微妙に変わってきましたね。
日本のカタカナは基本的に現地読みを再現するようにしていますが、キエフやリヴォフはロシア語読みだそうで、キーフ、リヴィウとする報道が増えました。
(4月1日追記)「軍事侵攻している側のロシア語に基づき適切ではないという指摘があることも踏まえ」て外務省も正式にキーウにすることにしたみたいですね。
「オデッサ」は「オデーサ」に、「チェルノブイリ」は「チョルノービリ」に、「ドニエプル」は「ドニプロ」に変わるのだとか。
東ヨーロッパのドイツ語地名
そんな気遣いをするのは日本ぐらいかと思ったら、ドイツでも似たような事例があります。
ロシアがウクライナに侵攻した当初のニュースではレンベルクと言っていたのに、今ではリヴィウと言っています。
むかしオーストリア=ハンガリー帝国の一部だったこともあってドイツ語名があるのです。
ほかにも、かつてドイツやオーストリア、あるいは、その昔、神聖ローマ帝国の領土だったところにはドイツ語名があります。
『物語ウクライナの歴史』
唐突ですが、ウクライナの歴史を勉強したい方には『物語ウクライナの歴史』(中公新書)がおすすめ。
ロシアのウクライナ侵攻で売れ行きが瀑上がりしたらしいですが、私はそれ以前に買っていました。
あらためて読み直すと、面白かった。
地名とか、なじみがなくて、いろいろ覚えにくかったんです~。
紛争は悲劇ですが、メディアでもウクライナの地理や歴史が特集されたりして、本が読みやすくなりました。
ポーランドのドイツ語地名
リーグニッツ(独)= レグニツァ(ポ)
ダンツィヒ(独)= グダンスク(ポ)
アウシュヴィツ(独)= オシフィエンチム(ポ)
クラカウ(独)= クラクフ(ポ)
リーグニッツは都市近郊で「ワールシュタットの戦い」が行われたことで有名です。(関連記事はこちら)
ダンツィヒはバルト海に面する港湾都市。
アウシュヴィツはユダヤ人絶滅収容所で有名です。
クラクフはワルシャワ遷都以前のポーランド王国の首都です。
チェコのドイツ語地名
カールスバート(独)= カルロヴィヴァリ(チェ)
ピルゼン(独)= プルゼニュ(チェ)
カールスバートは温泉地・保養地として知られています。
ピルゼンはピルゼンビール(ピルスナー)で有名です。私はビールを好まないのでよくわかりませんが、日本をはじめ世界のビールのほとんどはこのピルスナータイプなのだとか。
フランス・イタリアのドイツ語地名
フランスやイタリアにもドイツ語の地名があります。
フランスはドイツとの国境地帯にドイツ語地名
シュトラスブルク(独)= ストラスブール(仏)
エルザス(独)= アルザス(仏)
ロートリンゲン(独)= ロレーヌ(仏)
エルザス・ロートリンゲン(アルザス・ロレーヌ)地方は古くからドイツになったり、フランスになったりしてきた地域。シュトラスブルクもエルザスの都市です。
余談ですが、神聖ローマ帝国の皇帝位を代々世襲していたハプスブルク家は、マリア・テレジア(マリー・アントワネットの母)がロートリンゲン公フランツと結婚したため、それ以後は「ハプスブルク=ロートリンゲン」と二重姓になっています。
イタリアは北部にドイツ語地名
ボーツェン(独)= ボルツァーノ(伊)
トリエント(独)= トレント(伊)
フロレンツ(独)= フィレンツェ(伊)
ヴェネーディヒ(独)= ヴェネツィア(伊)
マイラント(独)= ミラノ(伊)
トゥリーン(独)= トリノ(伊)
北イタリアの主な都市にドイツ語名があります。
スイスの地名事情
スイスでびっくりしたのはゲンフですね。
ゲンフ(独)= ジュネーブ(仏)
スイスは多言語国家として知られていますが、スイスの地図にはドイツ語圏の地名はドイツ語で、フランス語圏の地名はフランス語で、イタリア語圏の地名はイタリア語で書いてあるので、非常に読みにくい。せめて併記してくれたら助かるのですが・・・。
余談ですが国には略記号があって、ドイツはD、フランスはF、イタリアはIです。ヨーロッパでは国際郵便物の宛先(たいてい郵便番号の前)や車のナンバープレートに書かれています。たいてい納得がいくアルファベットがついているものですが、スイスは、なぜかCH。
スイスの国名はSchweiz(独), Suisse(仏), Svizzera(伊)だからSかと思えば違う。ちなみにSはスウェーデンです。
スイス連邦のラテン語Confoederatio Helveticaの頭文字です。
ヨーロッパ以外のドイツ語地名
ヨーロッパでない地名で、ドイツ語で言われると一瞬とまどうこともあります。
新しい海の国
ノイゼーラント(独)= ニュージーランド
意味は「新しいゼーラント」。
ゼーラントは「海の国(土地)」という意味のオランダの州。
「新しいゼーラント」と名づけたのは当然オランダ人です。
もともと「ニューアムステルダム」だった「ニューヨーク」は名前を変えられてしまいましたが、ニュージーランドの場合はイギリスが領有しても微妙にオランダ語が残りました。
つづりがZeelandからZealandに変わっていますがSealandになりませんでした。
復活祭の島
オースターインゼル(独)= イースター島
太平洋上の島で、独特の巨大なモアイ像が有名です。
南米大陸からだいぶ西に離れていますが、いちおうチリ領。
英語のイースター、ドイツ語のオースターは「復活祭」。
これまたオランダ人によって復活祭の時期に「発見」されてしまったようです。
ロシアのドイツ語地名
ロシア語圏で有名なドイツ語の地名はケーニヒスベルクとペテルスブルクです。
王の山ケーニヒスベルク
ケーニヒスベルク(独)= カリーニングラード(露)
ケーニヒスベルクは「王の山」という意味。
ドイツの有名な哲学者カントが生まれ、育ち、活躍して死んだ都市です。ヨーロッパの有名人は各地を移動することが多いですが、カントは生涯のほとんどをこの地で過ごしました。
ケーニヒスベルクは、もともとはプロイセン(のちにドイツ)ですが、第二次世界大戦後にソ連領となりました。
名前もソ連の共産党幹部カリーニンの名前をとって「カリーニンの町」に変更されました。
たいした活躍をしていないからスターリン時代にも粛清の対象となることなく生き延びられたのでしょう。
聖なるピョートルの町サンクトペテルブルク
ザンクトペテルスブルク(独)= サンクトペテルブルク(露)
サンクトペテルブルクはドイツだったことはありません。
18世紀初頭にピョートル1世が要塞都市として建設し、その後、ロシア帝国の首都となりました。
フランスやドイツなど西側が先進地域だったことから、ロシア人自身によってドイツ風の都市名がつけられました。
ベテルブルクは字足らず
ところがドイツ人は必ず間に「ス」を入れて「ペテルスブルク」と言います(音としては「ペータースブルク」に近い)。
ドイツ的には「ペテルブルク」では字足らずな感じなんですよね。
というわけで「ペテルブルク」はドイツ風の地名でありながら、ロシア風なのでした。
ペテルブルク→ペトログラード→レニングラード→やっぱりペテルブルク
第一次世界大戦のときにはドイツとロシアが敵対したので、サンクトペテルブルクがロシア語名「ペトログラード」に改称されます。
意味はどちらも町を建設した皇帝の名前をとって「ピョートルの町」で同じなんですけどね。
しかし、まもなくロシア革命が起こって、帝政が妥当されると「レニングラード」になりました。革命家レーニンの町になったわけです。
そして冷戦後、昔の名前サンクトペテルブルクに戻って今に至っているのでした。
日本語のカタカナも二通り
ところで日本文献にも「ペテルスブルク」と「サンクトペテルブルク」両方の表記が見られます。
日本語で「ペテルスブルク」と書かれていたら、だいたい古い文献です。アカデミズムにおけるドイツ語の地位が高かったころにドイツ語を学んだ年配者の著書であることが多い。
最近のものはほとんど「サンクトペテルブルク」と書かれています。
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