なにか楽器を習いたい、昔やっていた楽器を再び始めたい、と思いませんか?
「音痴なドイツ人」に続いて、音楽的とされているドイツ人の意外な非音楽性について、お話ししながら「音楽のすすめ」です。今回はリズムの問題。
フルートを再開したけれど……
子どものお稽古ごととして楽器を習わせる家庭は多いですね。バイオリン、ピアノ、ギター……現代日本では、まったく楽器に触れたことがないという人のほうが珍しいと思われます。
私は小学三年生でピアノを習い始め、中学校のとき吹奏楽部に入り、フルートを吹きました。高校・大学は合唱部でした。何かひとつ同じことを続ければ、それなりのレベルに達したのかもしれませんが、飽きっぽいのか、いろいろと渡り歩いたので、どれもたいしたことがありません。
大人になってからは音楽から遠ざかっていましたが、あるとき無性に音楽がやりたくなり、中学卒業以来全然吹いていないフルートを再開しました。
ドイツ在住の頃のことです。最初は一人で練習しました。
でも、何かが違う。正しく吹けているのだろうか。とりあえず教則本を買おう。
そこで、びっくり。
フルートの教則本を探したのですが、初級の本は、どれも「四分音符とは何か」から始まるのです。「子ども用かな?」とも思ったのですが、そんなのばかり。
「フルートの練習をしたいんだ。フルートの吹き方を教えてくれ!」
と思ったけれど、そんなものは皆無。音符の読み方からはじまる初級本か、そうでなければ普通の楽譜があるのみ。「フルートの教則本」のイメージに合致するものは見つけられませんでした。
「これは先生に習うしかない」
そこで、フルート屋さんで紹介してもらった先生にレッスンを受けることにしました。
楽譜が読めることは当たり前ではない
フルートのレッスンは基本的に個人授業ですが、先生は、しばらくすると月に一度、三人でトリオを組んで演奏する機会を設けてくれました。すでに組まれていたトリオから一人抜けたので、そこに私が補充された形です。私のほかはドイツ人の大人二人。
あるとき、昔、トリオで演奏した曲をもう一度やってみようということになりました。他の二人は吹いたことがある曲なので、先生は最初、楽譜初見の私のそばにいてくれて、簡単なアドバイスをくれました。
楽譜を指差し、「難しいのはココね」
そのときは何が難しいのか、よくわかりませんでした。しかし演奏を始めると、実際に他の二人は、「難しい」と先生が指摘した箇所のリズムを正しく取ることができず、演奏は止まってしまいました。
問題のリズムはというと:3拍子で♪♪♪♪♪♪と8分音符が6つあり、最初の8分音符が前の小節からタイでつながっていました。どうも、裏拍で動くのが難しい……らしい。
(え~、そんなこと言ってたら、合奏なんかできないじゃん)
私は初見でも問題なかったので、先生は「あなたは大丈夫ね」と他の二人のところに行ってしまい、もうこちらには戻ってきませんでした。
生徒の理解を助けるため、先生は「こうするのよ」と実際にフルートを吹いてあげました。それでも二人は、できたり、できなかったり。
また、フルートを再開してまもなく、フルートのワークショップに参加したことがあります。参加者のフルート歴はおおよそ3~10年ぐらいでした。しかし、こと譜読みに関しては、再開して間もない私が最も確実でした。
(私って天才?)
そんな錯覚におちいっていた頃、デュッセルドルフの日本クラブのオーケストラ(の吹奏楽部門)に参加する機会を得ました。
デュッセルドルフは日系メーカーの拠点なので、ドイツで日本人の最も多い都市。日本人コロニーと言われることもあります。
そこに日本人のオーケストラがあるのです。所属メンバーは、たいてい大人ですが、中高生もいます。
その日に渡された楽譜を初見で吹くこともしばしば。ピタリとは決まらなくても、それなりに止まらずに曲の最後まで演奏することができます。中学生でも、なんとか吹く。相当むずかしいリズムでも難なくこなしているように見える。
(これが普通だよね。やっぱり私、天才じゃなかった)
日本にいたときに、自分がとりわけ譜が読めると思ったことはありませんでした。そして、デュッセルドルフで我に返ったというか、日本人基準としては、私はごく普通だと改めて確認しました。
日本人オケでは、リズムのとれない人には口で説明するだけです。わざわざ吹いてあげるようなことはしません。中学生でも、それで理解する。
私が中学で吹奏楽部に所属していたときもそうでした。はじめて楽器を始める1年生でも「4分音符とは何か」から教わっている人は、いませんでした。段階を踏んだレッスンなどはなく、いきなり合奏用の楽譜を渡されて、できようができまいが吹く。それでも、なんとか吹いていた。
それが普通だと思っていましたが、あれは日本の特殊事情???
再びフルートのレッスンに話を戻しますが、予習をかねて次の曲を初見で吹くことがありました。あるとき一箇所、複雑な小節がありました。私が間違えずに吹くと、先生は複雑な表情に。
「ここ、普通は1時間かかるんだけど、あなたは初見でできちゃったわね」
たしかにかなり複雑なメロディーでした。初見で正しく吹けたのはマグレで、家で練習したときは何度か間違えました。しかし、理解できないリズムではない。
他の生徒はこれがなかなかできないらしい。技術的にできないのではなく、リズムがわからない。「1時間かかる」は冗談だと思いますが、そのぐらい理解させるのに苦労するということです。
【大胆仮説】譜読み力は小学校の算数教育で決まる!
ドイツの学校にも音楽の時間はあります。なぜこんなに楽譜が読めないのか、非常に不思議です。
ちなみに、アメリカ人も「日本人は楽譜が読めるね」と言っていたので、楽譜が読めないのはドイツ人だけの話ではないようです。
以下は個人的な仮説ですが、譜読み力は小学校の算数教育と関係があるのではないでしょうか。
ドイツ(おそらく他の欧米諸国も)では計算は計算機で行い、筆算しません。ものの考え方がわかればいいのであって、計算は人間のすることではない、機械にやらせればよいという考え方です。
日本では、特に小学校の低学年で四則演算は、これでもかと何度も繰り返し計算させられます。公文に通わなくても、学校の授業と宿題だけで、かなりの計算量です。そして、その後、大学入試まで数学の問題を解くにあたって計算機をいっさい使いません。
譜読みは計算です。4分音符の半分が8分音符で、そのまた半分が16分音符。簡単な四則演算ですが、一瞬のうちに正確に頭で計算しなければなりません。その訓練ができているかどうかの違いではないか、というのが私の仮説です。
「音楽の国ドイツ」は「格闘技の国・日本」のようなもの
音程にしてもリズムにしても、あまりにも音楽的でないドイツ人に言いました。
私「あんた本当にドイツ人? パスポート見せてもらっていい?」
ドイツ人「関係ないじゃん」
私「だって、バッハ、ハイドン、モーツァルト、シューベルト、シューマン……」
ドイツ人「みんな、とっくに死んでるじゃないか」
確かにその通りです。「いや、カラヤン……」と言いかけて、あ~カラヤンも死んじゃったなあ。
「音楽の国ドイツ」は遠くなりにけり。
唐突ですが、ドイツでは日本語教師をしておりました。
今はアニメやマンガなど日本のサブカルチャーがきっかけで日本語をはじめる学生が多くなりましたが、昔は格闘技から日本に興味を持ったという人が多かったと聞きます。今でも生徒の格闘技経験者率はかなり高く、空手や柔道、剣道、合気道をしている生徒が珍しくありません。
私が知らない名前の武術を習っている人もいました。いわく、「毎年、日本の先生のところに行くので、日本語を習いたい」
こんな学生もいました。
学生「テコンドーをやっています」
私「テコンドーはコレアの格闘技ですね」
学生「仮面ライダーが好きです」
話の飛躍的展開もすごいのですが、仮面ライダーって、ドイツで放映しているんでしょうか? 私は見たことがないのですが。ちなみに、ウィキペディア「仮面ライダー」の項を見ると、他言語版の欄に英語やフランス語はありますが、ドイツ語はありません(2021年4月現在)。
どこで情報を仕入れるのか不思議ですが、ドイツの若者は日本のいろいろなことを知っています。
とにかく、武術・武道はアニメ・マンガなどのサブカルチャーと共に今でも多くの外国人にとって日本を知る入り口となっています。
武術用語はドイツでも日本語のまま使われているものが多いようです。
私たちが野球の「ストライク」や「ボール」などルールとして知っていても、言葉の意味や起源は実はよくわかっていないように、ドイツ人も格闘技用語の本来の意味は知らないようで、日本人である私に聞いてくることがありました。
初めて聞く言葉、しかも漢語なので、字がわからないと意味もわかりません。でも、ドイツ人は漢字はわからないと言う。こちらが答えられないと、がっかりした様子でした。
私が格闘技のことについて何も知らないので呆れられることもあります。
「もう~、格闘技の国なのに~」
え? 格闘技の国? 日本が?
たしかに空手・柔道・剣道・合気道……は日本の武術ですが、日本人全員に武芸のたしなみがあるわけではありません。
「音楽の国ドイツ」のイメージも、それと同じぐらい的外れなのかもしれません。
日本の素人音楽家の質は高い
「(日本人は)技術的にはすばらしいが芸術性が劣る」と聞いたことがありせんか。国際コンクールや、場合によってはプロの日本人演奏家に対する評です。
しかし、ドイツでふと思いました。
全般的に日本人の技術的能力が高すぎて、芸術性の優れた人が国内の選考過程で落ちてしまうのではないか……?
私が日本やドイツで接したのは、趣味で演奏する素人ですが、一般的に日本人のほうが技術的レベルが高いと思います。音楽大学に入ったり、プロになったりする人も、こういう母集団の中から上がっていく人たちですから、ベースとなる素人音楽家のレベルが高ければ、選考基準にも、当然、影響するでしょう。
技術というのは目で見て、耳で聞いて優劣がわかるものです。これに対して芸術性というのは主観的。芸術的にいかに優れていても、技術が明らかに劣っていたら、入学試験で落とされたり、運良く入学できても、その後の試験で、あまりいい成績をもらえなかったりするでしょう。評価されなければ、本人も、どんどん自信をなくしていきます。
「音楽の国ドイツ」には日本からも留学生が多数、音楽を学びに行きます。
私のフルートの先生が音大に通っていたときも日本人留学生が大勢いたそうです。「みんな優秀だった」とのこと。それは日本人である私へのリップサービスばかりではないと思います。
ドイツ各地にある大小のオーケストラには、けっこう東洋人がいます。日本人なんか住んでいなさそうな田舎でも日本人バイオリニストがいたりします。
逆にドイツに留学経験のある日本人音楽家の話では、ドイツの音大には「これで音大生?」のような下手クソがたくさんいたそうです。
つまり、ドイツでは、かなり下手でも音大に入れる。そこから挽回がきく世界なのではないか。
そんな風に思ったりしています。
自覚なく音楽的な(?)日本人のあなた、その音楽性に磨きをかけませんか?
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最後まで読んでくださってありがとうございました。