【香水レビュー】
歴史的名香の旅へと出てみませんか?
今回は数々の名香を生み出した伝統のブランド、ゲラン(Guerlain)のフレグランスから独断と偏見でベスト5を選び、ご紹介します。なお、どれが1位ということはありません。どれも1位です。
ジッキー 香水にしては薬っぽい 薬にしては香水っぽい
「ジッキー」のいわれは諸説あり
調香師エメ・ゲランの恋人のニックネームを冠した香りがジッキー(Jicky)です。
恋人の家族に反対され、結婚できませんでしたが、その想いを香りに託しました。
ただし、甥ジャックの愛称であるとの説も。
恋人の名にしておいたほうがロマンチックですね。
斬新すぎて受けなかったのに、今はすっかり伝統の香り
フランス革命100周年の年1889年に発売されたジッキーは斬新すぎて、上流社会の女性に受けなかったとか。
たしかに、現代人の私が嗅いでも、香水離れした香りだと思います。
トップ | ラベンダー、ベルガモット、ローズマリー |
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ミドル | ローズ、ジャスミン |
ベース | ウッド、オポポナックス、バニラ、トンカビーン |
たしかに、薬、とくに消毒薬のような香りかも。
実際に風邪をひきかけたときなどに欲しくなります。
薬にしては、ずいぶんおしゃれですけどね。
疲れがたまっているときなどに、気分はデトックス。
悪いものを寄せ付けない厳しさの中に、甘みのある不思議な香りです。
女性でも男性でもOK! クールな女性、繊細な男性に似合いそう。
ルールブルー 女性用香水なのに、なぜか翁の風格
夕刻、日が落ちながら、また闇が訪れていない絶妙な瞬間の魅惑を調香師ジャック・ゲランが香りに凝縮。
ルールブルー(L’Heure Bleue)とは「蒼の時」。
詩的な響きですよね。
フローラル・オリエンタルな女性向け香水なのに、なぜか女性よりも男性のイメージがわいてきます。
しかも、着物を着た男性。お寺の和尚さんや田舎でのんびりしている好々爺が思い浮かんでくるような香り。
トップ | アニス、ネロリ、コリアンダー、ベルガモット、レモン |
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ミドル | ヘリオトロープ、カーネーション、スミレ、クローブ、ネロリ、イランイラン、ローズ、ジャスミン、ラン、チュベローズ |
ベース | アイリス、バニラ、ベンゾイン、サンダルウッド、トンカビーン、ムスク、ベチバー |
なるほど、バニラ、ベンゾイン、トンカビーン、確かにそんな甘さです。ベンゾインは落ちついた渋みのある甘さ(語義矛盾?)、トンカビーンはとにかく甘い。
その他、フローラルというより、スパイシ-です。そこが翁っぽいゆえんでしょうか。
でも、実はゲランのなかで、個人的に最も気に入っている香りです。
ミツコ 重厚で渋々、大人の香り
ミツコは1919年、第一次世界大戦が終わり、ヴェルサイユ条約が締結される年に生まれた香水です。
Mitsouko。アルファベットつづりはミツォウコとか読んでしまいそうですが、ミツコ。
日本人女性の名前です。
日露戦争を舞台にしたフランスの小説『ラ・バタイユ』のヒロイン・ミツコから名づけられました。
オーストリアのクーデンホフ=カレルギー伯爵家に嫁いだミツコという女性がいて、この人の名前からつけられたという説もあったのですが、デマだそうです。
ちなみに伯爵夫人ミツコの息子リヒャルト・クーデンホフ=カレルギーは汎ヨーロッパ主義を提唱し、後のEU(欧州連合)の先駆と言われています。
そんなことよりゲランのミツコ、香りは渋いです。最初から最後まで渋い。高級なお香のよう。ゲランには重厚な香りが多いですが、なかでも最渋です。
トップ | ベルガモット、シトラス |
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ミドル | ピーチ、イランイラン、ジャスミン、ローズ、ライラック |
ベース | オークモス、スパイス、シナモン、ベチバー、アンバー |
ベースは納得できますが、お花、本当に入ってますか? と疑いたくなる渋々の香り。
品のいい老婦人に使ってほしい。たとえば草笛光子さん。
年はこんなふうに草取りたいものと思わせてくれる女優さんです。
たぶん身体にはまといにくいでしょう。
ルームフレグランスや、カードや便箋につけて送ったり、布などに一吹きしてはいかがでしょうか?
インパクトのある素敵な香りです。
似た香り:グレ、カボシャール(Grès, Cabochard)
グレのカボシャールは創業者アリックス・グレがインド旅行にインスピレーションを受けてできた香り。
Cabochardとはフランス語で「石頭、頑固」。
たしかにそんな感じです。
トップ | アルデヒド、セージ、スパイス、エストラゴン、アサフェティダ、レモン、フルーティノート |
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ミドル | ジェラニウム、オリスルート、オーズジャスミン、イランイラン |
ベース | レザー、オークモス、タバコ、ベチバー、パチョリ、サンダルウッド、ムスク、アンバー、ココナッツ |
ミツコ同様に渋々。
1959年発表ですからミツコよりは40年も後ですが、当時も濃い~香りがトレンドだったようです。
シャリマー オリエンタルフレグランスの代表は甘酸っぱい愛の媚薬
シャリマーはインド・ムガル帝国第5代皇帝皇帝シャー・ジャハーン(在位1628~58年)と妃ムムターズ・マハルの情熱的な愛の物語に感銘を受けて誕生した香り。
皇帝は妃のために水晶でできた池と噴水がいくつもある庭園を造らせ、「シャリマー(Shalimar)」と名付けました。サンスクリット語で「愛の殿堂」。
しかし愛する妃は早くに亡くなってしまいます。
皇帝は亡き愛妃のために白い大理石の廟タージ=マハルを建設しました。
現インドが誇る世界遺産です。
ここまでは、いい話なのですが、シャー=ジャハーンの晩年は悲惨です。
息子アウランゼーブ(第6代皇帝、在位1658~1707年)にタージマハルの見える部屋に幽閉され、妃の廟を眺めながら余生を過ごし、帝位を追われてから8年後に没しています。
インド皇帝の熱愛にインスピレーションを受けて生まれたシャリマー。発売当時は妖艶すぎて下品な香水と思われ、レディがまとうものではないとされていました。
トップ | シトラス、ベルガモット、レモン、シダー、マンダリンオレンジ |
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ミドル | アイリス、パチュリ、ベチバー、ジャスミン、ローズ |
ベース | インセンス、バニラ、レザー、オポポナックス、サンダルウッド、シベット、トンカビーン、ムスク |
パウダリーな柑橘系。
「甘酸っぱい」とは感情などについて比喩的に用いられることが多いですが、本当に甘酸っぱい香りです。
愛の媚薬と言われれば、そんな気がしないでもない。
シャリマーはオリエンタル香水の代表格。「オリエンタル」を銘打った香水は、大なり小なりシャリマーに似ています。
それにしても、「フローラル」や「柑橘系」、「石鹸系」という表現は香料そのものの性質によるので理解できますが、「オリエンタル」だけは、どこか腑に落ちないものがあります。
パウダリーだとエキゾチックなのでしょうか。
フランス人の感覚はよくわかりませんが、そういうものとして納得するしかありません。
日本では、こういう粉っぽい香りをまとうと「化粧濃いんじゃない?」と言われたりするかも。
派生フレグランス、オードシャリマー
シャリマーには派生フレグランスがあります。
たとえばオードシャリマー(Eau de Shalimar)。こちらのほうがさっぱりしていて使いやすかったのですが、限定盤だったので、今ではほとんど見かけません。また再販してくれるとうれしいのですが。
よく似た香りシャリマー フィルトル ドゥ パルファン(Shalimar Philtre de Parfum)が2020年12月より発売されましたが、これも数量限定発売だったので今では入手が難しいようです。
サムサラ ゲランらしくない? 現代的な香りで哲学しよう!
フランス革命から100年後にジッキー、さらにその100年後の1989年にはサムサラ(Samsara)が出ました。
サムサラは人気香水でしたから、この香りでバブル時代を思い出す人も多いのでは?
香水一家ゲラン家の三代目ジャン・ポールが、好きな女性がジャスミンとサンダルウッドが好きだと聞いて、完成させました。
ゲランには若向けの香水はないのかと思いきや、サムサラは老いも若きもOK。年代を問わず使えそうです。
そこをネガティブにとらえ、「サムサラはゲランらしくない」と言う人もいます。
トップ | イランイラン、ピーチ、ベルガモット、グリーンノート、レモン |
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ミドル | アイリス、ジャスミン、スイセン、オリスルート、ローズ、スミレ |
ベース | サンダルウッド、バニラ、アイリス、アンバー、トンカビーン、ムスク |
サムサラを特徴づけているのは特にイランイラン。イランイランが好きな人はサムサラが好き、サムサラが好きな人はイランイランが好きでしょう。
ついつい日常のルーティンに流されて時を過ごしがちですが、サムサラの落ち着いた香りでふっと我に返るようなときがあります。
サンスクリット語で「輪廻」を意味するサムサラ。
人はどこから来て、どこへ行くのか。そんな哲学的な思索にふけるのにもいい香り。
「香りをまといたいけれど、すぐに飽きてしまう」
「ボトルを使い切らない」
「香水は、まず試してみないと……」
という方には、カラリア 香りの定期便をお勧めいたします。
お好みのフレグランスを選んで少量だけ送ってもらうことができます。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
少しでも香り選びの参考になれば幸いです。