【ライティングアシスタントチーム倉山工房・編集協力担当が語る制作書籍紹介】
倉山満先生の『嘘だらけの池田勇人』(扶桑社)が発売されたのは2021年9月29日。
この日、なんと久々に池田勇人をルーツとする宏池会から自民党総裁が誕生!
いやいや、いくら倉山先生でも、そんな芸当はできません。発売日は出版社の都合もありますし。
でも、もう少し発売が遅かったら、帯のキャッチコピーは「岸田総理に読ませたい!」だったかもしれない。
倉山満先生の扶桑社からのベストセラー「嘘だらけシリーズ」は間違った歴史観によって歪んでしまった日本人の処方箋です。
これまでの本では『嘘だらけの日○近現代史』と題して、○の中には英・独・仏・露・中・韓・米が入っていました。
名誉ある「嘘だらけシリーズ」に連なる『嘘だらけの池田勇人』のアシスタントをさせていただき光栄に存じます。
イケハヤのことでしょ? 知られざる名宰相・池田勇人
本の制作中、知人に「池田勇人の本を作っているんだ」と言うと、
「へ~、あの人、おもしろいですよね。ツイッター、フォローしてます」
???
池田勇人があの世からツイッターしてる?
なりすましにしても設定がシュールすぎる。
それに、なんか話が噛み合わない。
私「誰の話?」
友人「イケハヤのことでしょ」
イケダハヤトというブロガー、ユーチューバーの方がいらっしゃるのですね。
略してイケハヤ。
年齢やライフスタイルにもよりますが、いまや元総理大臣の池田勇人よりもブロガーのイケダハヤトのほうが有名……なのかもしれない。
もっとも現代のイケダハヤトさんの本名も池田勇人だそうで、元総理にあやかって付けられたお名前であろうと推察いたします。
角栄礼賛に喝! 高度成長の種をまいたのは池田勇人
本書は現代のイケハヤさんではなく、1960年代前半の総理大臣・池田勇人(1899~1965)が主人公です。首相を辞めた後まもなく亡くなっているので回顧録などはありません。
著者いわく戦後、最高の総理大臣です。
倉山先生の著書に『桂太郎―日本政治史上、最高の総理大臣』(祥伝社、2020年)(関連記事はこちら)があります。
日露戦争に勝った総理大臣ですから「日本政治史上、最高」です。
池田勇人は日露戦争に比べたらインパクトは小さいですが、高度経済成長を推し進め、日本を経済大国へと導いた功労者ですので「戦後最高」です。
そんな池田勇人なのに、なぜか認知度が低い。
もっと評価されてしかるべき池田勇人、今となっては忘れられている池田勇人の復権をめざしたのが本書です。
今日の日本があるのは池田勇人のおかげと言っても過言ではありません。
実際に高度成長がピークに達するのは、佐藤内閣のときですが、佐藤は池田が撒いた種の実りを刈り取ったに過ぎません。田中角栄に至っては、高度成長をつぶしました。
今の出版界では角栄の本を書けば売れるそうです。ロッキード事件の悪者が、いつのまにか英雄になっているのが不思議です。たしかに今の政治家に欠けている胆力のようなものがあったのかもしれませんが、総理大臣になってからの政治は褒められたものではないというのが著者の主張です。角栄礼賛に喝!
挫折だらけのエリート池田勇人
池田勇人は京都帝国大学を卒業後、大蔵官僚となり、戦後の1949(昭和24)年、衆議院議員初当選で大蔵大臣、1960(昭和35)年に総理大臣となります。
この経歴だけ見ると、何の苦労もなくエリートコースまっしぐらの人生に見えるかもしれませんが、実は幼い頃から試験に落ちまくりの挫折人生です。
何をもって挫折とするかにもよりますが、本を読めば納得していただけると思います。
京都大学卒なら御の字と思いますが、「東大にあらずんば人にあらず」の大蔵省ではいじめられたようです。
個人的な幸せを追い求めるなら、そうかもしれません。
池田勇人は正直者
本のタイトルは出版直前に出版社が決めることが多いのですが、『嘘だらけの池田勇人』というタイトルにはギョッとしました。
従来の『嘘だらけ日○近現代史」は歴史に「嘘だらけ」を冠しているので「歴史をめぐる嘘を斬る!」コンセプトが明確ですが、「嘘だらけ」の後に人名が入ったら、まるで池田勇人が嘘ばかりついていたような印象です。
案の定、倉山ファンでない人の中にはタイトルから池田勇人の悪口が書いてある本だと思った人も多いようです。
実際には逆。
池田勇人について言われていることが嘘だらけなのであって、池田勇人は正直者です。
正直すぎて「貧乏人は麦を食え」と言ったと報道されてしまう。
貧乏人は麦を食え
年齢層の高い人は池田勇人といえば、「所得倍増」とともに「貧乏人は麦を食え」のような暴言を吐いた人との印象を強く持っています。
この「貧乏人は麦を食え」発言も、全体の趣旨を考えれば弱者切り捨て発言ではないのですが、マスコミに切り取られて「暴言」にされてしまったようなところがあります。そもそも池田自身、麦飯を食べているのです。詳しくは本で。
正直すぎて、政治的配慮が足りなかったというか、マスコミを敵にまわしてしまった時期もありました。しかし、そこから学んで総理大臣になってからは、マスコミ対策もバッチリ。人気の首相となります。
高度経済成長は当たり前ではなかった
戦後日本の発展は必然であったかのように思われがちですが、そうではありません。少なくとも池田がいなかったら、もっと緩慢なもの、あるいは、もっと規模の小さいものになっていたでしょう。
経済成長はいいことだから、みなが池田の政策に喜んで協力したかというとそうでもありませんでした。
「成長させすぎはよくない。ゆっくり行こう」のような批判もあったのです。
池田はスキあらば公定歩合を引き上げようとする日銀を抑え、所得倍増政策を推し進めます。
信念を貫き通すことは簡単ではなく、命がけ。池田は総理就任にあたって、妻と娘に喪服を贈っています。
池田は死を覚悟して政治を行っていたのです。実際に暗殺未遂事件も起こっています。
いい人ほど早死する
東京オリンピックを機に引退、死亡
惜しむらくは働きすぎて池田は病気になってしまい、1964年の東京オリンピックを花道に引退せざるをえなくなったことです。もし池田がもっと長生きしていたら、総理に復職しないまでも、政治的影響力を保ち続けたら、その後の日本は経済だけでなく政治大国にもなれていたかもしれない。
詳しくは本を読んでいただきたいのですが、惜しい政治家ほど早くに亡くなります。
タラ話をしても仕方がないのですが。
緒方竹虎も早死
池田の同時代人、緒方竹虎も早逝した政治家の一人。
吉田茂に続いて第2代自由党党首となったのが緒方竹虎でした。今では名前も忘れられていますが、江崎道朗先生が、緒方竹虎についての本をお書きになりました。
江崎道朗『緒方竹虎と日本のインテリジェンス 情報なき国家は敗北する』(PHP新書)
倉山先生いわく「この人が早死しなかったら日本のインテリジェンスはもっとちゃんとしたものになったのに、という死んだ子の年を数えるような物悲しい本」です。
伝記は時代を映す鏡
一人の人の人生を追っていくことで、その時代が見えてきます。
池田勇人という個人に興味のない人も、本書は時代を知る鍵となるでしょう。
戦前の池田を追っていくと、時代性や大蔵省末端の悲哀がわかります。
戦後のキーワードの印象が変わる!
GHQ、マッカーサー、吉田茂、シャウプ勧告、ドッジ・ライン……
終戦後のキーワードです。
名前や用語は聞いたことがあると思いますが、『嘘だらけの池田勇人』を読むと、教科書に書かれている印象とは違ったものに見えてくるでしょう。
戦後の首相の印象が変わる!
意外と弱かった岸信介。日本をダメにした佐藤栄作。
『嘘だらけの池田勇人』を読んだ後には、総理大臣の印象が変わります。
田中角栄、福田赳夫、宮澤喜一など、のちの総理大臣も池田の時代にはパシリです。
総理になってからの偉そうな態度を覚えている世代には、かわいく見えるかも。
『嘘だらけの池田勇人』紹介動画
日本人は池田勇人の遺産で生きている~『嘘だらけの池田勇人』
池田勇人はスゴすぎて後世、印象に残らなかった総理大臣。問題を未然に防いでしまえば、問題が起こらないから、誰にも褒めてもらえないのでした。
「軍備よりまず経済」の真実~池田・ロバートソン会談
池田=ハト派は嘘!
「大失言」の真意
「貧乏人は麦を食え」と池田は言っていない。
オリンピック1964と2020
今回の東京2020オリンピックはコロナ禍の中、話題がコロナにさらわれた感じです。
そうでなければ前回1964年の東京オリンピックとその時代などに関して特集が組まれ、池田の業績にもスポットが当たったのではないでしょうか。
選手たちの活躍には拍手をおくりたいと思いますが、政治の劣化か、報道の劣化か、はたまた別の劣化かよくわかりませんが、「大丈夫なのか、ニッポン?」と思わざるを得ない今日このごろ。
かつては、こんな日本人がいた!
と思い出していただきたい一冊です。
発売1週間で重版
『噓だらけの池田勇人』が発売1週間で重版となり、御礼番組が制作されました。海上先生をお迎えして、池田勇人時代をリアルタイムで知る人々の感覚が語られます。
『噓だらけの池田勇人』重版御礼 前編 高度経済成長時代とは何だったのか?
『噓だらけの池田勇人』重版御礼 後半 憲法改正を封印したエコノミックアニマルの元凶なのか?
特別番組
みんなで学ぼう池田勇人 第1話 池田勇人の何が偉いのか?
池田が評価されにくいのは、誰も気づかないところですごいことをやっていたからなんですね。
みんなで学ぼう池田勇人 第2話
「思えば私は池田がやりたかったことを仕事にしているような気がします」と倉山先生。
池田は国家の根本は教育であると考え、総理をやめたら教育に力を入れるつもりでした。自分の国を愛する国民を育てたかったのです。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
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