『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著、河出書房新社)を読んでの考察・感想です。
前記事「人類発展の謎と未来を哲学する『サピエンス全史』 想像力がサピエンスを地上の覇者にした!?」の続きですが、今回は本の内容というより、本を読んで受けたインスピレーションによる連想の広がりといったところ。
ホモ=サピエンスがなぜ地上の覇者になったのか。
それは7万年前に起こった認知革命による。
他の動物およびヒト科になく、サピエンスだけがこのとき持つことになった能力とは「想像力」。物語を紡ぎ出し、有力なフィクションによって大集団を統率することが可能になった。
認知革命がサピエンスの発展における決定的な大変革であった。
みんな宗教
「共産主義は20世紀最大の宗教」と言われたりしますが、資本主義も自由主義も民主主義もすべて宗教のようなもの。『サピエンス全史』の著者いわく、どれもフィクションです。
あるフィクションをより多くの人に信じさせることができれば、より大きな集団を動かすことができる。20世紀には共産主義・社会主義が人を惹きつけましたが、世紀末にはすっかり信頼を失っていました。
資本主義、自由主義、民主主義はどうでしょうか?
共産主義に勝ったというよりは、共産主義があまりにもダメダメだったの感あり。
生き残っている主義も、どれも20世紀の共産主義ほどの勢いはないように見えます。
フィクション性の少ない国民国家・日本
世界に冠たる安定性
なんだかんだといって、抜群の安定性を誇る我が国、日本。
「他の国なら暴動が起こっている」と何度言われたことでしょうか。
国がひっくりかえるような大変革もたいした内乱を起こさずにこなしてしまう日本の国家としての安定性は世界に冠たるものがあります。
30年も続くデフレにも国民はおとなしく耐え忍んでいます。
そうですね~。そろそろ怒らないと!
本物の国民国家・日本
日本が日本であることに誰も疑問をいだかないところは日本の強みです。
「国境」や「民族」は、たいていの国ではフィクションですが、日本ではかなり本物です。
海という天然の要害に囲まれ、国境は見えません。日本列島が日本だと思っているし、実際に昔からそうでした。
そして、有史以来、異民族の侵攻を受けたことがない。
第二次大戦後、米軍に占領されましたが、アメリカ人が移民してきて居着いたわけではありません。数年の占領期間を終えたら基地にだけ残って、残りは帰っていきました。
大陸では常に民族が入り乱れています。征服、被征服を繰り返し、民族が重なり合い、場合によっては、入れ替わっています。
世界最古の皇室を持つ意義
ヨーロッパの王様はローマ教皇(神の使い)に認めてもらったり、「王権神授説」なるものを掲げて、正当化したりしなければならなかったけれども、日本は歴史時代以前から続く王朝を頂き、天皇陛下が日本の天皇陛下であることに疑問を持つ人はいません。
世界的に、これほど説得力のある王朝はありません。なぜ天皇が天皇なのか、ことさら「〇〇説」を作り出して信じさせる必要などないのです。
神話がありますが、それを信じるかどうかは実はどうでもよく、神話的な先祖を持つほど古いというところに意義がある。
現存する王朝で神代にさかのぼれるのは、日本の皇室だけではないでしょうか。
イギリス王室、もとをたどれば「イギリスの王室」ではない
現イギリス王室はウィリアム征服王までさかのぼることができ、「比較的」古い王朝です。
王朝名は何度か変わっていますが、なんだかんだ言って、ウィリアム1世から現王朝まで血の繋がりがあるのです。
しかし、ウィリアム1世は「征服王」の呼び名からして、外からやってきて現地人を征服して王位についたことが明らかです。
歴史時代に起こったことなので、その事実はごまかしようがない。
さらに17世紀というかなり新しい時代に名誉革命でカトリックの王を追放し、その後、プロテスタントの王が子孫を残さず断絶すると、遠縁のハノーファー選帝侯を王に迎えました。ハノーファーは神聖ローマ帝国内の一国、現ドイツの一部です。
実際に、そう主張する人もいます。
スウェーデン王室はナポレオンの将軍の子孫
スウェーデンはもっとひどくて、現王室の祖はナポレオンの将軍です。それまでのスウェーデン王室とは縁もゆかりもない。
私も理解に苦しみます。
そこの疑問を持つスウェーデン人も少なからずいるのではないでしょうか。
良心的に正当化できる国家はない?
ホッブズ(1588~1679、イギリスの哲学者・政治学者)は『リヴァイアサン』で「世界中どこを探しても、みずからの発祥を良心に照らして正当化できるような国家はほとんどない」と言っています。
日本は、その数少ない例外といえるかもしれません。
いつの時代も支配者が自分たちを征服した民族だと思っている人はほとんどいなかった。
世界はフィクションの正当化に苦しんでいる?
たいがいの国や地域において国家とは大がかりのフィクションです。
特に「国民国家」はその最たるもの。
国民国家を考える入門書としては倉山満『世界の歴史はウソばかり』をおすすめします。
世界の歴史は断絶ばかり
アジア・アフリカのほとんどの地域はかつて植民地化され、かつての秩序は一旦は破壊されています。
支配者となったヨーロッパの国々にしても、もともとは征服したりされたりしあいながら、できあがってきた国家です。
だから「世界の歴史はウソばかり」になるのです。
フランク人の国フランス
現代フランス人は「ガリア人」を自分たちのご先祖さまと思っているようです。
しかし、そもそも「フランス」という国名がフランク族がやってきてガリア人を支配下に置いてできあがった国であることを示しています。
だからフランス革命のときには「あいつら(王侯貴族)はフランク人だ。ガリア人のフランスを取り戻せ」のようなキャッチフレーズも出てくる。
実際には、ケルト人、ガリア人、ゲルマン人の混血だと思いますけどね。
だとしたら、こわいですね……。
ドイツは比較的はえぬき国家
強いて言えばドイツは比較的生え抜き国家です。戦争に勝ったり負けたり、国土がすさまじく荒廃したり、国境が移動したことはありますが、少なくとも歴史時代に入ってから(ドイツ中央部は)異民族に支配されていません。
ローマ帝国ですらライン川以東のゲルマニアを完全に支配下にはおけませんでした。
部族同士の争いがあったのかもしれませんが、現代にまで響く征服物語はありません。
ただ有史以来、分裂状態がデフォルトだったので、今も地域(州)の独立性が強い国です。
「経済大国」には、なるべくしてなった?
このように考えると、現代世界における日本とドイツの強さは偶然ではないのかもしれません。どちらも生え抜き。
社会主義が信じられなくなったからソ連崩壊
20世紀ソ連の強さは前述のように世界中の多くの人々が共産主義の理想を信じたからです。人々がイデオロギーを信じなくなったら、崩壊しました。
自由の国アメリカには実は王様がいる!?
新興国アメリカの成功は目覚ましいものがあります。
「自由の国」アメリカで、どうして人がまとまれるのか。
それはトマス・ペインの『コモン・センス』を読んでいるときにひらめきました。
というか、そこに書いてありました。
アメリカには、実は王様がいます。
アメリカでは神様が王様なのです。
もともと信仰の自由を求めてやってきた人々によって建国された国アメリカをまとめるものは宗教(キリスト教)です。
だから、アメリカ人の宗教心が薄れたら、あるいはキリスト教徒以外の移民が増えたら、何らかの別のフィクションが必要になることでしょう。
だれでも皇帝になれる国、中国は究極の自由主義!?
中国はいまや世界第2位の経済大国と言われますが、地球人の5分の1は中国人ですから、人口の割には弱いと言えるでしょう。本当の意味で先進国と同レベルならダントツの1位であるはずです。
あそこは人類の5分の1をまとめていること自体がすごい。
「中国は文明ではあるが国ではない」のようなことをサミュエル・ハンチントンが『文明の衝突』で言っていました。
カギは中華文明にありそうです。
中国は誰でも王様(皇帝)になれるところです。古代王朝である漢の始祖・劉邦からして農民。
中国の王朝交替劇のすさまじさについては宮脇淳子『皇帝たちの中国史』がおすすめ。
人口が10分の1になることがあったり、常に厳しい生存競争にさらされているところです。中国とは何か、がわかる本!
王朝末期には慢性的に内乱が起こりますが、そのうち再びまとまるのが不思議。
これだけは謎です。
中国共産党はいちおう共産主義でまとめたことになっていますが、今の中国は、もはや共産主義でもなさそうです。
それを良しとする文化。究極の自由主義ですね。階級も流動的です。
もとも権力者になる自由はあっても、権力者以外の人に自由はないのですが。
まとめ
日本は世界で最もフィクション性の少ない生え抜き国家です。
ほとんどの日本人が自身を持って「自分の国」と言える国。征服者も被征服者もいません。
下手な「教え」や「主義」で、あれこれ無理に飾らなくていい。
その強みをもっと自覚し誇りを持っていいのではないでしょうか。
最後まで読んでくださってありがとうございました。